
※この記事は2024年4月発売「大学野球総合版〜2024年春季リーグver」の選手インタビュー記事を加筆・修正したものです。
ターニングポイント
ーバッティングで他の選手と差別化できるポイントはどのあたりか?
「自分は打球を遠くに飛ばす能力に関してはチームの中でもある方がと思う。芯を食った時の爆発力は他と差別化できると思う」
ー東大は周りに長打力のあるタイプの選手は少ないのか?
「5年前とか6年前はそういう選手も多かったと聞く」
東大が通常のリーグ戦で最後に勝ち点を挙げたのは今から7年前の2017年。法大相手に2連勝で勝ち点を奪取し、優勝した慶大からも初戦で白星を挙げた。同年のドラフト会議で東京ヤクルトスワローズから7位指名を受けたエース・宮台康平投手が躍進の原動力となったことは間違いないが、打力の高さが大きな要因となったことも事実だ。3本塁打を放った楠田創外野手、3割を超える打率を残した田口耕蔵内野手を中心に全体で8本塁打を放った。2023年秋季リーグの東大の本塁打は0。長打力が売りの工藤の活躍は不可欠だ。
工藤は小学校1年生の時に4歳年上の兄とともに野球を始めた。ちょうど侍ジャパンが世界一となった2009WBCが開催された頃だ。転機となったのは今から4年前の2020年。新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るい、当時高校3年生だった工藤の最後の夏の大会も中止に追い込まれた。自粛が要請され、思うように練習ができない中で、工藤は同級生の2選手とともに練習に励んだ。工藤と後に筑波大学野球部プレーすることとなる和田尚輝内野手、生方秀典内野手の3選手は次の大学野球というステップに向けて自主的にトレーニングをした。高校で課されていた練習に加えて、練習の中で互いの中の課題を指摘しあった。「野球の試合もなく、大人の目もない中で自分たちでどうやったらうまくなるかを考えたのは純粋に野球を楽しめた時期だった」。まるで自分で考え、練習しなければならない時間が長い大学野球のような時間であっただろう。
肉離れなどで試合に出れない時期も長かった1年生の時期と比較して、2年生の頃は自らの実力を確認することができたと工藤は語る。フレッシュトーナメントやサマーリーグ、オータムフレッシュリーグといった若手中心の大会では中軸を任されることも多く、自分の調子の上限と下限を確認することができたと言う。特に6〜7月は5月のフレッシュトーナメントできっかけを掴むことができたこともあり、「何も考えないでもピッチャーが投げてくる球を全部打てそう」と感じるほどだった。しかし、全体を通して見ると調子のムラが激しく、「メンタル的にやられてしまい、フォームが崩れてしまう」時期もあった。
オフシーズンには悪い癖を治すべく、自らのスイングの動画を撮影し、分析をした。また、有益な情報をYoutubeなどから取得することもある。工藤は「情報過多になり、頭でっかちになって、自分の体で使えないと意味がないので、取捨選択が重要だと思う」と話す。多くの選手が利用している外部指導についても「自分の動きと正反対の動きを教えているところもある。そういうところは辞める。直感で合うか合わないかを決める」と言う。自分の体にあった理論を採用するように心がけている。
最近では趣味の料理に勤しんでいる。寮生活では自炊は難しいが、IHを購入したことにより調理ができるようになった。体づくりをかねて鶏肉や大豆などの健康に良い食品を多く用いた食事をつくっている。これまで調子が悪い時期には夜ふかし、やけ食いというように生活習慣が乱れてしまうこともあった。好きなことから生活習慣をただし、野球の成績向上にもつながるようにしている。
これまでは外野手としての出場も多かった工藤は今季からは一塁手として勝負をする覚悟を決めた。入学から2年がたち、工藤にとっての大学野球も折り返し地点を迎えている。取材の最後に筆者が春季リーグに出場できそうかと問いかけると「出ます」と力強く宣言した。
(写真提供:東京六大学野球連盟・文:円城寺雷太)