世代の主将のラストイヤー

(前編から)
2023年プロ野球ドラフト会議で先発の二枚看板がいずれもドラフト1位で指名された青山学院大学野球部。中島大輔にとって下村海翔と常廣羽也斗は強力な仲間であるとともに良きライバルだった。「ポジションは違いますけど、年々すごくなっていく彼らを見ながらすごい練習に対する姿勢や考え方や努力の仕方がどんどん変わっているのを間近で見て、自分も良い影響を受けた」。ドラフト1位候補として挙げられていた両投手の活躍はプロを目指すきっかけとなった。
体力測定の結果を巡っても三者は切磋琢磨した。走力、跳躍力やパワーといった能力を計測する体力測定において身体能力に優れた中島の有利は明らかなようにも思える。実際、下級生の頃は大きな差があった。しかし、下村・常廣が年々、成長を遂げるにつれ三者の差は次第に縮まっていった。最後は誰が一位となるか分からないほどの僅差の勝負となった。「ある程度差があったらこんなもんでいいかと思ってしまいがちだが、それでもあれだけ追い上げられると頑張るきっかけになった」。高いレベルの競争があったからこそお互いに成長することができた。

迎えた2023年春季リーグ。開幕戦こそ落としたもののそこから6連勝と首位を独走した青山学院大学野球部に優勝の機運が高まってきたのは5月11日の國學院大戦のことだった。苦しい展開だったが、同点で迎えた10回の裏に中島のサヨナラヒットで試合を制した。そして、翌日も大勝し、17年ぶりのリーグ優勝を果たした。「二部の頃から一部昇格、リーグ優勝、日本一というのは聞かれるたびに言葉を並べていただけで正直、夢物語だった。本当はそんなことができないと思って始まった大学生活だった。それがまさか自分たちの代で現実となった時は本当に夢のようなふわふわとした実感がない感じだった」。直後に行われた全日本大学野球選手権では決勝で明治大学を破り優勝。夢のような日々が続いた。
連覇をかけて臨んだ秋季リーグは春季リーグのように順調な戦いとはいかなかった。勝ち点2で迎えた第4節では亜細亜大学にあえなく2連敗と勝ち点を落とし、最終戦の結果次第ではわずかながら降格の可能性を残すほどまで追い込まれた。「春ほどうまくは行かないと思っていたが、もう少し余裕で勝てるんじゃないかと思っていた自分もいた。まだあるんじゃないかなという気持ち2割と引退からという気持ち8割で(亜大戦と同日に行われた)中央対日大を見守っていた」。日大が中大に勝利し、迎えた第5節。2連勝で優勝を決めた。「やってきたことは間違いでなかったという証明、日本一になってどうすれば良いかわからない時期もあったが、それでもみんなでもがき続けた結果がこうして報われるんだと思った瞬間だった」。これまで優勝へあと一歩と迫りながらも及ばなかった試合が脳裏をかすめることもあった。しかし、最後に青山学院大学野球部に勝利の女神は微笑んだ。
「やることはやった。結果を待つだけ。呼ばれても呼ばれなくてもそれが今の実力だと受け入れられる準備をして当日臨んでいた」。4位で指名されれば上出来と考え、進行を見守ったドラフト会議。隣に座る下村と常廣がドラフト1位で早々と指名される一方で、中島の名前はなかなか呼ばれない。「3位くらいまでは自分の出番ではないと思っていた」と明かしながらも指名が進むと徐々に緊張が高まっていった。6巡目に入り、日本ハム・ヤクルト・巨人からは相次いで選択終了の文字が表示された。「正直もうダメなのかなというマイナスな気持ちになってましたね。後から聞いたら『5巡目終わった時の大輔の顔は死んでたよ』と周りから言われるくらい不安が大きくなっていた」。その直後のことだった。
「第6巡選択希望選手 東北楽天 中島大輔 外野手 青山学院大学」
嬉しさよりも安堵が先行した。夢だったプロ野球の舞台へ足を踏み入れる。「この人のようになりたい、この人をきっかけで野球を始めたと思われるような人になりたい。野球に限らず色々なスポーツを見て勇気をもらったという言葉を見る。自分自身もすごいなと勇気をもらうこともある。いつかそういう選手に自分もなれたら良いなと思っている」。

母校の龍谷大平安高を訪れた時は「お前がキャプテンやるとは思わなかった」と言葉をかけられた。大学日本代表でも主将を務め、日米大学野球優勝に大きく貢献した。日本一と世界一を経験した「世代の主将」となった。「キャプテンをやったことで自分を表現できるようになった。今まで言えなかったことを言えるようになった。やっていって良かったと思った」。
11月下旬に行われた新入団選手発表会見でも1位の古謝樹(桐蔭横浜大)から世代の主将として立てられる場面もあった。「僕は6位なのででしゃばるわけにはいかないが、古謝からは『大輔がキャプテンだからお前が行ってくれ』と言われた。自分としては偉くなったつもりもキャプテンだったなというつもりも全然ないまま周りがそういってくれるのでちょっと嬉しい」。
大学四冠の夢は後輩へと託す。理想のキャプテン像とは異なる中島の主将就任により青学野球部は練習方法から寮生活まで多くの面で変化した。「メンバーが変われば色も変わると良いなと思う」。来年からは佐々木泰が主将を務める。新しいチームはどう変わっていくのだろうか。
最後に、記事を介して中島大輔からチームメイトへのメッセージを届ける。とても恥ずかしくて面と向かっては言えないが、伝えたいそうだ。
「自分がキャプテンの中でついてきてくれてありがとう」
文責:円城寺雷太 写真:五島佑一郎