
いつか「馬の脚」へ 自分を信じるための4年間の幕開け
昨年度、現役部員から3人、卒部生から1人がドラフト指名を受けた青山学院大学。今年春には第73回全日本大学野球選手権で2年連続の優勝を果たし、その勢いは留まるところを知らない。
この春入部した村上洸星(天理)は、入部早々に圧倒的な力を実感した。試合には出ていないが、目の前で先輩たちがどんどん勝ち進んでいく様。寮で寝食を共にする先輩の練習への取り組みやウエイトトレーニングのレベル、意識の高さを、「足りない部分に自分で取り組まなくちゃいけない、その責任がある」と自分に引き寄せて考える。
青学野球部は一学年に選手が8人というコンパクトなチーム。同級生は入部前から顔見知りだったというほどだ。団結力も高くて、「どうしてプロに指名されるような良い選手が続々と育つと思うか?」と問うと「先輩たちの技術や知識が受け継がれていて、みんなが集まれば最強」なのだと返ってきた。
しかし、その環境に甘えてはいけないと村上は繰り返し口にする。先輩たち、同級生とも仲が良く、監督は自分のチームへの貢献を期待してくれている。監督に信頼してもらっているから、それに応えたい。応えなくちゃいけない。気持ちが奮い立つ。
天理高校で活躍した村上だが、コンディションのムラのせいで自身の良さを出しきれないのが高校時代から課題だ。メンタルの弱さは自覚していて、ストレートの調子が良くないと思ったら変化球に逃げてしまうという。正面から勝負してダメなら潔くダメ、という逃げないピッチングを目指す。
もう一つ、中学時代から続く課題もある。線の細さだ。周囲に「貧相な体」「生まれたての小鹿」と表現され「先輩と比べると1年生はみんなウエイトが劣るけど、自分はその1年の中でもさらに弱い」から、とにかく線の太い体づくりに励む。
いつも意識するのは天理高校の1つ先輩の達孝太。ドラフト1位で日本ハムファイターズに指名された達は高校の時から何もかも図抜けていて、「ウエイトも上がるし野球にめちゃくちゃストイックで、『これがドラ1や』って思わせてきた」という。学年が近いからこそ、その凄みが記憶に焼き付いている。
村上の武器はストレートだ。高校時代から速かったというストレートはたとえ大雑把なコントロールだとしてもバッターを差し込める走る球。さらに奥行きに磨きをかけ、真っ向勝負に打ち負けないものにしたい。そのためにも再現性が欠かせない。チームのピッチャー陣でも「再現性」が合言葉なのだといい、理想の球を正確に再現できるように練習を重ねる。再現性を十分に発揮して直球勝負できるメンタルの強さも身に着けたい。
マウンドで腹を据えてストレートを投げられるための練習を、村上は「お守り」と表現する。ルーティンや緊張はないけれど、「これだけの準備をしてきた」という心の拠り所を用意して登板機会に臨めるように。強かな狙いをもって練習に取り組んでいる。
いつか、「生まれたての小鹿」から「馬みたいな脚」になりたいという村上。「偏向」とさえ言われるマイペースさは、選手各自が一つ一つの練習にこだわる大学でのスタイルにうまく乗じることができるだろう。自分で自分を信じてあげられるように、それが監督の、チームの期待に応えることに繋がるように。お守りを作りつづけて、1年後2年後にはきっと頼もしいピッチングをしてみせる。 (敬称略)