大学野球における若手育成 第11回 明治大学・小島大地内野手(明大中野・2年)【後編】

※この記事は「大学野球総合版~2024年秋季リーグver~」に掲載された記事を修正・再加筆したものです。

(前編から)

 明治大学野球部入部後はまずはそのレベルの高さに驚く。「大学に入ったらノックのスピードも違い、送球も140キロ出てるのではないかと思うくらいだった。手が痛かった。分厚い守備手袋を使っていた。上手い人が多いので周りは教科書だらけだと感じた」。レギュラーを易々と掴むことができた中学や高校時代と違い、簡単に試合に出場することすらできない。「今までは勝手にチャンスが来た。中学や高校でもレギュラーになれた。普通にやっていれば普通にチャンスが来て試合に出れた。マジで試合に出れないぞ、試合に出るどころか試合に行けない。これが競争なのだなと初めて感じた。その戦い方も武器も弱いなと思った。どう食らいついていくかと毎日必死になった」。同級生が先に試合に出る中で焦燥感を感じることもあった。同じ学科、クラスであった檜村圭吾内野手(成田高②)とは入部当初から交流があった。「モチベーションも上がらない日もあった。檜村も試合に出ていてどうするんだ俺と思うこともあった」。それを乗り越えてここまで来れたのは日々の努力があったからだ。「開き直ってとりあえず練習してできなかったら仕方がないと思った。この1年や2年は投資として練習に消化していた。この寮の中で一番バットを振ろうとしている。もともと練習が好きなタイプではなかった。チームで一番下手なところからのスタートだった。ボールも取れない、バットにも当たらない。それでも練習だけはきちんとしようと思った。それを続けてきた結果がちょっとずつ出てきた」。練習に熱心に取り組むことができている陰には仲間の存在も大きい。フレッシュトーナメントで劇的なサヨナラ打を放った若狭遼之助外野手(星稜②)とともに練習に励んでいる。小島が若狭にバッティングを尋ねたことから二人の関係は始まった。若狭について小島は「身体能力は飛び抜けているわけではない。それでも、フレッシュでも結果を出している。勝負強いバッティングは自分の目指すべきところだと思う。(若狭の)練習は一つ一つに意味がある。中学高校大学と積み上げてきたものがあり、参考になる。目標であるし、尊敬できる存在」と評する。ひたむきに仲間とともに前に進む。

 ファーストでレギュラーを掴むうえで課題は山積している。「高校で遅れている分、伸びしろだらけだと思う。守備はもっとできるし、やらないといけないと思う。バッティングももっと打球が飛ぶようになる。フィジカルもでかいだけで重量はあがらない」。バッティング一つをとっても他の選手との差は大きい。同じファーストの杉崎成内野手(東海大菅生④)と比較する。「自分のフォームはもともとあおるような感じだったが、そこではないなと。成さんを見ていると自分より全然当たるし、飛ぶし、体も強い。今、自分がかち上げてもセンターフライにしかならない。古いと言われるかもしれないが、打球に鋭くコンタクトすることがホームランにつながると思う」。基礎に立ち返り打撃を磨いている。「神宮などでも自分が出たら面白いな、どうなるんだという雰囲気を作りたい。そういう場面で打てばチームが変わるかなと思う」。

 かつて明大中野から明治大学野球部に入部し、4年次には多くの試合に出場した明新大地外野手(現・信濃グランセローズ)。小島大地が目標として掲げる選手の一人だ。明新が行っていた明治の応援歌を流しながら練習を行うスタイルを小島は時には行うこともある。「付属校からリーグ戦で活躍する姿はカッコよい」。選手としてのタイプとしては違う。それでも努力家の姿勢は見習う。「明新さんは練習を最後に終えた人が室内練習場のスイッチを消す決まりがある中であれを消すのが自分の仕事だと思って練習していると聞いた。それを聞くと活躍は積み重ねた結果なのだなと思う」。小島自身も一年次から積極的に練習に取り組んだ。一年生ながら午前練習に参加し、当時のエースの村田賢一投手(現・福岡ソフトバンクホークス)と対戦するなど貴重な経験を得た。「積極性やがめつさはあると思う。前に前にと練習をしている」。

 まずは目の前にあるのは秋のフレッシュトーナメント。しかし、3年生になると目先の大会はなくなる。「そういう中でいかに自分の存在感を出していけるかが大事になる」。もちろん、今は選手として神宮の舞台で活躍することを目標としている。しかし、小島は取材で最終版で意外なことを切り出す。

 「正直野球の方は水物」。そして続ける。「もちろん(上に)絡みたいし、結果を出したいなと思っている。自分もある程度熱意をもって野球をできてきた。色んなところで色んなものを見てきた。こんなに野球が好きで野球をやってきたのに日本一を見たことがない。一回くらい自分が野球で日本一を経験してみたい。それを取れるチームだと思っている。どういう形になったとしても、選手を辞めてアシストに回るという決断があったとしても、日本一を見てみたいなと思った。今は選手一本だが、そういうことを考えることもなくはない」。

 古代ローマの詩人ホラティウスの詩に登場する言葉に”Carpe diem“というものがある。直訳すると「その日を摘め」。すなわち「今を生きる」。限りある時間の中で今を全力で生きるという意味で古くより使われてきた名句だ。小島が取材の最後に「一日一日を全力で取り組んで行きたい」と宣言した時、そんな言葉が頭に浮かんだ。数か月後、数年後、数十年後、彼がどこで、どのような形で活躍をしているかは分からない。未来はどうとでも変わる。それでも、今日という日に小島大地が流している汗は未来でかけがえのない結晶となっている。

写真提供:明治大学野球部