
※この記事は「大学野球総合版~2024年秋季リーグver~」に掲載された記事を修正・再加筆したものです。
口数は決して多くない。しかし、周囲をよく観察している。それが筆者の佐仲大輝に対する第一印象だった。昨春の選抜高校野球大会で山梨学院高校の正捕手として優勝に大きく貢献し、明治大学野球部へと今春入学した。そして、春の若手主体のフレッシュトーナメントでも結果を残した。きわめて順調な滑り出しのようにも思える。しかし、当の本人はいたって冷静沈着だ。「最初の2年間は先輩について体づくりをしたい。その後、ベンチ入りしてリーグ戦で活躍したい」。焦らず着実に力をつけていく計画だ。しかし、最初の2年間というのは少し長いのではないだろうか。そう問いかけると「そのくらい先輩たちのレベルが高いから仕方がない」と返す。大学日本代表にも選出された小島大河をはじめ、多くのキャッチャーがレギュラー争いを繰り広げる明治大学で虎視眈々と正捕手の座を狙っている。
さらに佐仲はデータに関する関心も特徴的である。話は2021年秋の高校野球関東大会までさかのぼる。1年生ながら試合でホームランを連発し、チームの代替わりのタイミングで正捕手となった佐仲の思い出の試合だ。決勝までコマを進めた山梨学院高は明秀日立高に7-9で敗れる。「あの試合は自分が配球ミスをしてしまい負けてしまった。自分がしっかりと配球をしていれば先輩たちは神宮大会に行くことができたので、一番印象に残っている」。高校時代には監督や部長から教えをうけて配球を勉強するようになった。データを見て配球をすることが次第にできるようになっていく。データへの関心は今でも変わることはない。「データを見ることは好き。作る側もやってみたい気持ちはある。自分もそのデータ見て、実際に試合でそのデータが当たったりした時にすごいなって。自分もやってみたいなと思った」。特にバッターの打ち方が気になるという。「こういう打ち方をしているからここが打てる、ここが弱いということが知れたら面白い」。理論的であるのは守備だけではない。3年時の選抜高校野球ではホームランを放った佐仲であるが、打撃の開眼の秘訣はその前の冬にあった。もともと金属バットでの練習の傍らに木製バットで練習に取り組むことはあった。しかし、その冬は木製バットを用いて徹底的に練習を行った。すると、内側から出す感覚を身につけることができ、打撃が開花した。
誰しも他の人に負けたくないと思う武器が一つや二つはある。佐仲にとってそれは何か。そう問いかけると「やるからには全部」と意外な答えが返ってきた。取材中も決して表情を変えることは多くない。しかし、胸のうちにはやはり闘志をこめている。「大学野球では野球を考える力をつけたい」。そのために知識を持っている人から知識を吸収する。ゆっくりと確実に能力を向上させている。
話ははじめに戻る。佐仲は長崎リトルシニアから山梨学院高校へと進学する際にシニアチームの監督である若松猛から色紙を受けとった。そこに記された言葉とは「忍耐力」。その意味について佐仲は「忍耐力を持って努力をしないと上では活躍できない」と解釈している。まだレギュラーまでは遠い。その努力を知ることは筆者の力では難しい。しかし、周囲をよく観察し、知識を習得し、力をつけている。それだけは確かによく分かる。いつの日になるかは分からない。それでも佐仲大輝がレギュラーを取った日にはその成長した姿に驚かされるに違いない。
写真提供:明治大学野球部