【2024年ドラフト候補過去記事公開】第六回 法政大学・吉鶴翔瑛投手

 映画やドラマの鑑賞が趣味と語る吉鶴翔瑛投手。しかし、取材が行われた3月ごろ、画面に映るのはもっぱらプロ野球のオープン戦の映像だ。自身の理想とするボールを目指すべく、プロの投手の映像をよく研究している。目標は「伸びがあってなおかつ強いボール」。プロでは同じ左腕の隅田知一郎投手(埼玉西武ライオンズ)や右腕ながら伊藤大海投手(北海道日本ハムファイターズ)の映像を見ることが多い。強いボールとはキャッチャーに突き刺さるようなボールのこと。伸びのあるボールとはバッターの手元で早く感じるボールのこと。その二つを両立することができている投手はプロ野球の世界であっても決して多くはないという。

 初めて規定投球回に到達し、防御率1点台を残した2023年の秋。自身の目標でもあるプロ野球の舞台がようやく見えてきたように感じたという。チーム内でも高みを目指して切磋琢磨する。木更津高校時代からともに過ごしている篠木健太郎投手とは「あんまり喋らなくてもお互いのことが分かる関係」である。強いボールを目指す仲間として技術面について意見を交換することもある。ホップ成分が大きい篠木に対してホップ成分は多いとはいえない吉鶴はどのようにプロの世界でも通用する強いボールを投げていくのだろうか。ヒントとなるのは昨年のリーグ戦のデータであった。法政大学の登板した投手の中で吉鶴はリリースポイントが一番前だったという。チーム内でも突出したリリースポイントの低さは一つ上のカテゴリーでも武器になると考えている。

 12月に松山で行われた大学日本代表候補合宿では全国トップレベルの投手との交流を深めた。特に同じ左腕の金丸夢斗投手(関西大)や徳山一翔投手(環太平洋大)とはコミュニケーションを取ることが多かった。吉鶴は両投手を次のように分析する。「金丸は伸びのあるボールを、徳山は強いボールを投げる。自分は両立できるピッチャーになりたい」。「(代表合宿では)「初対戦のバッターに初見のボールを打たれた。何回見ても打たれない、(打者が)早く感じるボールを投げていきたいと思った」と振り返る。

 

 春季リーグから秋季リーグへの成績の飛躍には2つの要因があった。1つは夏の間のスライダーの改良。「自分は曲がりが大きいボールが三振を取れると思っていたが、スライダーを真っ直ぐにより近づけて、曲がるボールが三振が取れるボールだと気づけた」。ストレートとスライダーの軌道を似たものにすることによって空振り率も向上した。もう一つは秋季リーグ中の出来事。腰痛が発症したことにより思うようなピッチングができない場面があった。しかし、それをきっかけに「思い切り投げなくても抑えられるという発見があった」と語る。「際などは狙わずに強いボールを投げるようにした。フォアボールで自滅することが少なくなった」。まさに怪我の功名で投手として一段階成長した。

 法政大学野球部では今年に入って変化があった。「野手と投手で話す機会が増えた。去年までは機会を使って話すことが多かったが、自然と話すことが多くなった。試合中でも投手が野手に『こうして欲しい』というなど試合中の会話も増えた」。吉鶴の今年の春季リーグのアピールポイントは三振の多さとバッターが手も足も出ない投球。「優勝の立役者になりたい。大学の中で一番結果を出したいなとも思っているし、まだ最優秀防御率を取れていないので、 今季こそ取りたいなと思っている」。3年間磨き続けた投球を開花させる時が来た。