大学野球の楽しみ方

5ー6位決定戦に勝利して喜ぶ東大

 東京六大学野球2024年春季リーグは早稲田大学の優勝で幕を閉じた。しかし、東京六大学野球はまだ終わっていない。リーグ戦の終了後には4日間の日程でフレッシュトーナメントが行われる。フレッシュトーナメントこそ大学野球の魅力が詰まっている場所はない。

多様性を楽しむこと

 大学野球の魅力を一言で表すのであれば多様性であろう。大学の野球部には様々な選手が在籍している。1年生を例にとれば甲子園の舞台で躍動し、多くの観客の注目を集めた選手もいれば、出場機会が限られている選手も存在する。入試方式の話となればスポーツ推薦、一般入試、付属校出身者など多種多様である。4年生を例にとれば、レギュラーとして確固たる地位を確立した選手もいれば、ラストイヤーに公式戦に出場することを目標に練習に励む者もいる。卒業後にはドラフト1位でプロの舞台へと足を踏み入れる者、社会人野球や独立リーグでプレーする者、一般企業に就職して野球とは無縁の生活を送る者もいる。選手だけではない。学生コーチ、マネージャー、アナリストといった選手を支える立場の人々もいる。そういった学生スタッフにもまた物語があり、彼らもまた大学野球の舞台で陰ながら主人公となることができるのだ。4年間という限られた時間制限の中で誰もが自分だけの物語を織りなす。毎年、多くの部員がその物語を終え、また新たに多くの部員が物語を始める。

物語の起承転結

 現状のスポーツ報道を鑑みるとその内容が物語の一部に偏っているように思わずにはいられない。すなわち、小説で言うところのクライマックスばかりが脚光を集めているように感じさせられる。確かに、小説のクライマックスとは物語全体で最も面白い場面であろう。スポーツにおいても名場面と言われるようなシーンが何十年も語り継がれる。しかし、山場しかない小説に本当の意味で面白さはあるのだろうか。筆者にとって山場ばかりの物語は味気のないような印象を受ける。多くの部員にとって大学野球における4年間とは決して平坦なものではない。紆余曲折があり、多くの経験を積むことによって少しずつ変化していく。勝負の世界は残酷で、勝つものと負けるものがある。多くの部員はレギュラーの座をつかむことなく大学野球の舞台を去っていく。公式戦で出場する機会がないまま野球を引退する選手も存在する。しかしながら、だからといって彼らの物語が無味乾燥という訳ではない。それぞれが成功者と同じほど二転三転する物語を持っている。

「起」を楽しむフレッシュトーナメント

 東京六大学野球リーグ戦後すぐに開催されるフレッシュトーナメントは選手の4年間を追いかけ始める格好の機会となる。1・2年生が出場の対象となっており、中にはリーグ戦で活躍した選手が出場することもあるが、大半は出場経験がないまたはほとんどない選手だ。4日間連続で実施され、全ての大学の試合を最低でも2試合は見ることができる。昨今のアマチュア野球ではピッチクロックの導入や7回制の採用など時短が主張されることも多いが、フレッシュトーナメントはその先駆けともいえる。新人戦と聞くとコアなファンを対象とする大会のようにも思えるかもしれない。しかしながら、フレッシュトーナメントはむしろ東京六大学野球にあまり知識がないファンが楽しめる大会であろう。一日に多くの選手を見ることで気になる選手を探し、その選手の今後を追いかけ続ける。高校野球ファンが大学野球を見始めるきっかけとしても最適だ。試合に出場する選手の中には甲子園でプレーした選手も多い。高校野球のその後を追いかけるべく、まずはフレッシュトーナメントに足を運ばれてはいかがだろうか。いずれの場合であっても、大学野球という物語の第一章としてフレッシュトーナメントが果たすことのできる役割は非常に大きい。

野球を愛するみなさん、フレッシュトーナメントを観戦するために、神宮球場に足を運ばれてはいかがだろうか。

※この記事は第2号「大学野球総合版〜2024年春季リーグver〜」掲載の同名コラムを、2024年春季リーグの結果を踏まえた上で加筆・修正したものです。

昨秋フレッシュトーナメントに出場した主な選手

宮城誇南投手(早稲田大学・浦和学院③)

明治大学戦に登板し、7回1失点の好投をみせた。

今春はリーグ戦ではエースの伊藤樹投手に次ぐ2番手投手として5試合に登板し、2勝・防御率2.42の成績を残し、優勝に大きく貢献した。

杉浦海大捕手(東京大学・湘南③)

フレッシュトーナメントでは3試合全てで先発マスクを被った。

5月12日の法政大学戦では同点の7回に、相手先発の吉鶴翔瑛投手から一時勝ち越しとなるホームランを放った。

毛利海大投手(明治大学・福岡大大濠③)

昨秋は早稲田大学戦に先発し、5回3失点のピッチングをみせた。

リーグ戦では7試合に登板した。途中からは2番手先発として強固な投手陣の一翼を担った。

謝辞

写真はあやりさん(X:@ayarino89_ks20)にご提供いただきました。厚く御礼申し上げます。