2023年大学野球振り返り 〜ポストコロナの応援〜

 新型コロナウイルスによる規制が大きく緩和された2023年、コロナ禍の影響を大きく受けた大学野球の応援の変化を東京六大学野球の応援を元に振り返りたい。

 当たり前だった光景が失われ、パンデミックの影響で日本中が未曽有の非常事態に追い込まれた2020年。野球界もシーズンが開幕できないほど大きな影響を受けた。

 プロ野球が開幕した6月19日から約2ヶ月後の8月、東京六大学野球は全国26連盟の先陣を切り、4か月遅れの春季リーグ戦が開幕した。そこには前年まで当たり前のようにあった歓声はなく、入場者数の制限、マスクの着用、アルコール類の販売禁止、大声を上げての観戦自粛、間隔を2メートルとっての着席など沢山のことが求められた。未知の病の感染対策に苦戦を強いられ、東京六大学野球に華を添える応援団の入場は認められないまま、灼熱の春は終わりを迎えた。

 異例のリーグ戦から1ヶ月後、各地でリーグ戦が開幕した。神宮球場では応援団は外野席での応援が認められた。試合前と試合後に事前製作の動画がオーロラビジョンに表示され、校歌、塾歌、応援歌「ただひとつ」といった各校のエール交換時の曲が流れた春には聞くことのなかったチャンスパターンメドレーに私も心を踊らされた。しかし、観客と共に応援をすることは認められず、応援をリードすることではなく、応援のプロフェッショナルとして、応援団のみで応援することが求められた。他のリーグでは1部のみの試合開催の影響や各連盟の方針により応援団の応援は認められず、引退を迎えた四年生が多くいたことも事実だ。

 「すぐに元の生活に戻るだろう」。そう信じて、ただ前を向いて進むしかなかったあの頃から3年弱がたった。2021年はマスクを着用しての外野席での応援、2022年は春季リーグ戦最終カード以降、春季リーグ戦の早慶戦を除く全てのカードで応援団ブースを設けた内野席での応援と着々と変化していった。ついに、2023年春、当時1年生であった学年が各大学の最上級生となり、新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行された。本来の形であった「観客と共に声を出して応援をする」という応援団が応援をリードし、観客が声を出し、応援席を作り上げる、かつての活気が戻ってきた。

 コロナ禍初年度に入学した彼らには経験のない、従来の応援席に応援団や観客が戻ってきた時、そこに居たのは、コロナ前を知るOB、OGの姿であった。コロナ前の応援席の運営を知る世代が内野応援のスペシャリストとして、経験のない彼らの助っ人となり大学時代を過ごした応援席 に戻ってきたのだ。失われつつあった各校の伝統、文化、ノウハウを繋ぐ役割を持った助っ人と共に、「ポストコロナ」を強く、逞しく生き抜く一歩を踏み出した。こうして戻ってきたのが、かつての当たり前であった東京六大学野球の姿だ。

 内野応援のノウハウや各校の応援文化を継承した彼らは、新応援曲の作成やグッズの販売、長年途絶えていたものを復活させるなど、様々なことに取り組んでいた。コロナ前以上の盛り上がりを見せるために全力を尽くす姿に心を奪われたファンや彼らの成長に感動したOB、OGもいるだろう。

 応援団員は誰しも「華の幹部になってやる」と夢や目標、憧れ、希望を持って、鍛錬を積みながら下級生時代を過ごすのだろう。「コロナ世代」とも呼ばれる2020年から2022年の最上級生、彼らは憧れ、思い描いた幹部としての1年を過ごすことが叶わなかったのかもしれない。それでも、 その一瞬に全力を尽くし、古き良き伝統を継ぐべく、試行錯誤を繰り返しながら前に進んできた全国各地の大学応援団のOB、OGに大きな拍手を送りたい。思い出話に花を咲かせる時、話題になるのはコロナ禍での経験なのかもしれない。コロナ禍を共に戦い、逆境を乗り越え続けた経験や沢山の仲間との思い出はポストコロナの世の中になってもきっと各々の強みとなって生きるはずだ。

 ポストコロナの世の中となった今、残されたコロナ禍を知る部員には、コロナ禍を乗り越えた応援団を継承する使命が残されているのかもしれない。